はみごのぼやき
犬田小文吾悌順

何となく「気は優しくて、力持ち」、大柄なイメージを持たれがちな人のようだが、私の中では、まあ、不良ではある。 割と格好良い不良。ちゃんとした不良(チンピラではない)。落とし物を拾ってくれる不良といったイメージ。

頼りがいがあるし、ちゃんとそれを受け止めることの出来る人ではあると思う。

彼について忘れてはならないのは、昔、近所のチンピラを成敗してしまったことだろう。つまり、人を殺めてしまったという過去が、彼にはある。 それ故、父親に刀を紙縒で結ばれていたわけで、これは後々の彼の性格にかなり影響しているのではないかと思う。 信乃たちと出会った頃はもう、落ち着いた頃で、荒くれ者を宥めて、束ねたりしていたのではないだろうか。血気盛んな連中から慕われていたことだろう。

不良だからこそ、毛野を受け入れることが出来たのではないだろうか。また、だからこそ毛野は、彼と行動を共にしたのではないだろうか。 唯一、毛野を少年として受け入れた人。毛野の求めていたものを満たしてやれる存在であったのではないかと思う。 毛野が奥底に隠していた、もしかすると自分さえ気付いていなかったかもしれない寂しさに気付いて、受け入れていたのかもしれない。 単に裏表がないという理由だけで、毛野が傍に置いたとは思えない。

女、子どもには優しい。騙されても、懲りずに信じることの出来る人。妹には甘かったのだろう。

この人の強さは、失ったものの大きさに打ちひしがれるのではなく、生きている者のことを考えられることにあるのだと思う。
目の前のものを見失わず、守ろうとさえ思えることが、彼の強さであり、優しさなのだと思う。

夜風にあたりながら、ふっと、亡くした者や失ったものを思うこともあっただろう。 広い草原に一人、風を感じながら、それでも振り返らずに進んでいくことの出来る、そんな優しさを持った人。
今在るものを大切にできる人。頼ってくるものを拒んだり、突き放したりはしない。

割と人の手足となって動く方ではないだろうか。「いいんだよ、俺がやるから」といった具合で。

相手が安心して横で寝てしまえる人。ただし、寝ている間に何処かへ行ってしまう可能性はある。帰ってくるかどうかは、五分五分。

少しくすんだ緑色の草原で、夕暮れ近くに風を浴びているようなイメージ。
もしくは、夜の街の、華やかなネオンがちらちら見える細い路地裏で、壁にもたれながら煙草を吸うイメージ。



八犬士選択



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