はみごのぼやき
犬坂毛野胤智

彼は少年なのですよ。
本編に出てきた時は、十五歳の設定だったはずだが、当時の十五歳は、今の年齢の数え方とは異なるので、大雑把に考えると、十三歳くらいの設定になると思われる。 それなら女性と見間違うことも、不思議ではないかもしれないと、思うわけで。女顔だったのだろう。

この人は、状況的に、早く大人にならなければならなかったのだろう。
女田楽の一座に拾われたというが、その一座自体、そんなに楽に生きることの出来る環境だとは思わない。 まして、十三歳といえば、現在の感覚でいうところの思春期に当たろう。だからこそ、彼を突き動かすものがあったのではないだろうか。
己が武士の子であるという事実や、父親を始め、異母兄や異母姉、その母親までもが殺されているという、そんな状況で、自分は男だとなれば、当時の感覚からしても、当然の成り行きだったのかもしれない。 しかも、何時、我が身さえ狙われるかもしれないという、そんな状況なら、十分に彼を突き動かす理由になったのではないかと思う。

この子は、自ら動くことの出来る子である。
その目で見て、その耳で聞いて、とにかく自ら動き、情報を集め、我が身一つで立ち回っている。

辛さも、憎しみも、強さに変えようとしたのかもしれない。

しかし、私は、彼を見ていると、悲しく思うことがある。

当然、頭も良いし、クールだろう。
行動力があるというのが、彼の、もっとも彼たるところかもしれない。 ただし、人を頼ることが出来なかったという状況の為もあるだろうが、マイペースな印象が強い。チームワークは、やろうと思えば出来るのだろうが、好きでもなさそう。

利用できる物は、それこそ、自分の容姿でさえも利用することが出来る。この割り切りの良さが、何とも言い難い。

笑わんのやろね。眉間にシワばっかり入れてそう。
それでも、寂しさは感じていたのではないだろうか。
一人でも平気であるとは思うが、それは、単に他人と比べての話であり、ふとした瞬間に、一人であることを不安に思うこともあったのではないだろうか。 悲しさなんてものは、華やかさで隠していたのではないだろうか。
強い子だと思うが、この子の強さは、優しさではなく、厳しさに表れていると思う。
誰かと一緒にいるということを知らないのかもしれない。全て一人でしなければならなかったから。

頭の良い子やから、本懐を遂げた後に待つものが、空しさだということも分かっていたと思う。それでも、やらなければならなかった。 それ以外の道を見出さなかったというか、突き進むしかなかったという状況が、それだけでもう、悲しい。

何というか、いつも切羽詰まっていた気がする。
時々、おちゃっぴーな性格にされるようだが、そんなことはないだろう。 わざとそう見せることがあるとも考えられるが、あまり、そういうこともなさそうな感じがする。そんな余裕はなかっただろう。どちらかというと、真面目な子ではないかと思う。

どんな状況も受け入れてやっていける。「自分はどうなってもいいのだから」とでも考えていたのかもしれない。「生きているなら、生きるさ」といった感じで。

彼は、家族とか、家名とか、生まれた時にはもう失っていて、その上、母親が亡くなった時点で、我が身以外の柵をなくしてしまっているんですね。

結局、この子の笑顔は、見ることはなかったのかもしれない。

華やかで、厳しいイメージが強い。

秋のイメージを持つ人、紅葉を彼の華やかさに見る人も多いようだが、私としては、冬、雪と月(冬の月)と椿の花といったイメージが強い。



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