はみごのぼやき
犬江親兵衛仁

幼少時から登場した、小文吾の甥にして、義兄弟の末弟にあたる、「仁」の珠を持つ少年。

比較的初期の段階で登場するも、前半はほとんど出てこないどころか、両親を亡くした彼は、前世の母である伏姫の加護を受け、「神隠し」状態に。

この話の登場人物は、何処彼処で接点を持ち、その接点は一つとは限らないという、複雑なようで、因果めいた関係を持っている。
親兵衛を取り巻く事情にも、それは当てはまることで、彼もまた、幼いままにその運命の渦中に呑み込まれてしまう。

彼について疑問に思うことは、やはり、この幼子が、いかにして「仁」の心根を身につけたのかということだろうか。

彼の存在を思う時、私は必ず、彼の両親のことを思う。

親兵衛は、母親の胎内から、片手を握りしめた状態で生まれてきた。
この握られていた手の中に「仁」の珠があったことがわかるのだが、親兵衛は、その珠を何処で手に入れたのだろうか。

私は、もしかすると、この珠を持って生まれたのは、沼藺なのではないかと思う。
どのような諸事情により、それがその子どもへと渡ったのか、明確な答えはない。
そもそもこれは仮説なのだが、彼女には「仁」の心根があったように思う。母から子へと、これは、女性ならではの事象なのかもしれない。

伏姫と沼藺と房八と、その子、親兵衛。
その全ての存在が、仁の心を作り上げたのかもしれない。



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